2021年08月18日
新型コロナウイルス感染症に対して、いま私たちができること、やるべきこと。これは今も変わりません。
「集まらない」「手洗い」「ワクチン接種」がとにかく大事です。
「マスク」は手段の一つであって、目的ではありません。
新型コロナウイルス感染症の拡大が未だに続いています。先が見えずに苛立ちや不安を感じている方も多いのではないでしょうか。
私たちが自分で何に気をつければよいのか、今まで私なりに色々考えてきました。もちろん新しい知見も多いですし、治療法も確立してきています。ですが、根本的なことは変わっていません。一人ひとりが倦まず弛まず地道に努力して乗り越えていければ良いと思います。
テレビ、ネット、各種メディアには情報が溢れていますが、不確かなもの、不安を煽るようなものも多いのが実情ですので、徒に振り回されないことが大事です。
では、改めて一人ひとりが今何を考えれば良いのか、何をやれば良いのか、について考えてみます。
新型コロナウイルスの感染経路は飛沫感染です。飛沫とは、会話や咳、くしゃみなどによって口から出る細かい水滴のことを指す言葉です。ウイルスを含んだ飛沫を吸い込むことによって感染が起こります。飛沫はある程度重量がありますので重力の影響ですぐ落ちてしまいますが、新型コロナウイルスの感染では、しばらく空気中に浮遊しているマイクロ飛沫(エアロゾルと呼ぶこともあります)という細かい飛沫による感染が問題になっています。
まず考えるべきことは、この飛沫とマイクロ飛沫による感染を防ぐことです。飛沫の直撃で感染することは多くの人が注意しているでしょうが、それに加えてマイクロ飛沫による感染にも注意が必要です。「一つの空間に長時間居て、会話したり飲食をしたりする」という状況を避けることが重要です。換気されていても人が沢山集まるところ、多くの人が話しているところは避けるべきでしょう。飲食店「だけ」がハイリスクではありません。自宅で何人か知人を呼んでお喋りすることも、同じくらいのリスクがあると考えてください。久しぶりに皆で集まって食事しよう、ということもまだまだ我慢が必要です。換気もされて広々とした店内に、そこまで多くのお客さんがいないような静かなお店で、家族など少人数で食事をする、というような状況であれば、もちろん感染のリスクはありますが、比較的危険性は低いかと考えられます。
このように、新型コロナウイルスに感染しやすい環境はある程度予測可能です。兎にも角にもそのような環境に身を置かないこと、それに尽きます。広さは関係なく屋内で、複数人で食事をする、お喋りをする、歌うといった状況を避けましょう。
マスクはあくまでも感染予防の手段の一つであって、その効果は限定的なものと考えましょう。マスクをしていても、ウイルスを含むマイクロ飛沫が多く浮遊している環境にいれば感染します。また、マスクをしていても喋っていれば飛沫やマイクロ飛沫は外に漏れ出ていきます。マスクは自分の飛沫を外に出さないようにする、あるいは外からの飛沫を防ぐ効果がありますが、マスクの上下左右には隙間がありますし、ましてや鼻が出ていたりずれていたりすれば効果は激減します。それにウイルスそのものは一般的な不織布マスクの網目の数十分の1の大きさなので、マスクではウイルスそのものは防げません。個人的には、マスクをしていれば感染しない、という勘違いが感染拡大の一つの要因なのではないかと思います。マスクをすべきところではもちろん着用してください。ただ、マスクをしていても感染しやすい環境にいれば感染します。また、逆に炎天下の屋外で、ただ歩いているのにマスクをして汗だくで体調を崩すのも本末転倒です。マスクを付けることが目的になってはいけません。
手洗いは感染予防の基本中の基本で、マスク以上に重要です。アルコール系の手指消毒薬が多く出回っていますが、アルコール系の消毒薬だけでは汚れはなかなか落ちません。流水と石鹸での手洗いで汚れをしっかり落としてから、必要に応じてアルコール系の消毒薬を使うようにしましょう。また、アルコールには脱水作用があります。アルコールを頻繁に使用していると肌荒れがひどくなりやすいです。肌の保湿にも気をつけてください。
新型コロナワクチンの接種は非常に重要です。ファイザー・ビオンテック社やモデルナ社のmRNAワクチンの効果は今までのワクチンに比べて非常に効果が高く、新型コロナウイルス感染症の予防の中で非常に重要な役割を担っています。2021年7月末において、ファイザー社の新型コロナワクチンの有効性はアルファ株に対して97%、デルタ株に対しても87.9%です。デルタ株に対してワクチンは効果がないわけではありません。もちろんワクチンを接種したから絶対に感染しないということではありませんが、感染や発症を抑える効果は明らかです。さらに大事なことは、ワクチンを接種することは、自分のためだけではありません。ワクチン接種をしたくても、持病などのために接種できない人たちを守るために接種してください。国民の8割9割がワクチンを接種して初めてそのような人たちが安心できるのです。ワクチンの副反応についても、従来のワクチンと比較して大きな差はないことも分かってきています。
ワクチン接種が進んでいるのに感染拡大が止まらないじゃないか、と感じる人も多いのではないかと思います。これは簡単に言えば、ワクチン接種のスピードがウイルスに追いついていないためです。ウイルスは種の保存のために増殖します。ウイルスは自分では増殖できないので、地球上で一番増殖しやすい、つまりたくさん存在するヒトを使って増殖するのです。ワクチン接種が進んで増殖のスピードが落ちればウイルスにとってはピンチですのでワクチンに強い構造に変化します。これが変異株です。変異株ができる前にワクチン接種が進めば拡大を抑えられるのですが、残念ながら現状ではウイルスのほうが一歩リードしているようです。一刻も早くワクチン接種が進むことを切に願う次第です。
もう一つ、新型コロナウイルス感染症が拡大していても、他の病気は今まで通り治療が必要です。外出すると新型コロナウイルスに感染するかも知れないと思い病院にいかなくなる、といういわゆる「受診控え」で、糖尿病や喘息、心臓疾患などの持病が悪くなってしまったり、今までは早期に見つかっていた癌などの重大な病気の発見が遅れてしまったりというケースが実際に起こっています。今まで通院していた治療は必ず継続するようにしてください。体調が悪かったり、気になる症状があったりする場合にはきちんと医療機関を受診してください。健康診断を受けなくなった方も多いようですが、例えば健診の胃カメラで早期の癌が見つかって耳鼻咽喉科に紹介されるといったケースは多く、健康診断の意義は大きいのです。こういう時期だからこそ尚更「健康でいること」が大切です。何かあれば早めに診察を受けること、健康診断を受けることを忘れないでください。
そしてもう一つ、ウイルスに感染しないような身体でいることもとても大事です。体内にウイルスが入ったから必ず感染するとは限りません。体が追い出してくれることも多いのです。水分、栄養をしっかりとること、睡眠や休息をとることを心がけましょう。
さらに忘れてはいけないことは、身体だけではなく心の健康も大切だということです。屋外は人が集まらなければ感染のリスクが比較的低いです。外で体を動かしたり、のんびり散歩したり、運動不足の解消にもなりますし、非常に良いことだと思います。家の中で楽しめること、一人だからできること、一人でしかできないこともたくさんあります。名曲に聴き入ったり、名作を読みふけったり、あるいはこの機会に新しいことや今までできなかったことに挑戦してみるのも良いかも知れません。
しばらくは、感染に気をつけながらの生活が続くでしょう。ただひたすら我慢してふさぎ込むのではなく、この状況にあった生活スタイルをそれぞれ見つけながら、身体も心も健康で平穏な毎日を過ごしていきましょう。
たかおか耳鼻咽喉科クリニック 院長 高岡卓司
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